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青森地方裁判所 昭和52年(行ウ)2号 判決 1978年6月27日

原告 山田林業株式会社

被告 青森税務署長

訴訟代理人 笠原嘉人 千葉嘉昭 大宮由雄 対馬淳夫 ほか四名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事  実 <省略>

理由

一  請求原因第1ないし第5項の事実は当事者間に争いがない。

二  そこで本件処分の違法性について検討する。

1  本件土地が騒音規制地域内に存在しないことは当事者間に争いがない。

2  次に<証拠省略>によれば、以下の事実が認められ、この認定に対する反証はない。

(一)  原告は、騒音規制法三条により県知事が指定した騒音規制地域内にある青森市大字原別字上海原一七一の土地上に製材工場(木造平屋建二棟からなる。)を所有し製材業を営んでいたが、昭和四六、七年ころから右土地周辺地域の住宅地化に伴い、周辺住民から右工場において発生する騒音、振動、塵あい等に対する苦情が持込まれるようになり、青森市公害交通安全課からもその改善方を要請され、このため内壁を二重にし、集塵装置付焼却炉を設置するなどの手段を講じてきたが、これによる改善には限度があり、また新たに焼却炉から出る油煙の害が加わるなど抜本的解決としては工場の移転より他に方法がない状態であつた。

(二)  原告は、騒音規制地域外である市内大字野内字菊川七一番一五に本件土地を所有し、「土場(材木置場ないし選別用地)」として使用していたが、同土地は間口が狭小であつて工場用地としての使用に適さないため、本件土地に前記工場を移転させることは不可能であつた。そこで、原告は、昭和四八年から四九年にかけて市内大字野内字浦島一〇五番一外三筆合計一、九八〇坪の土地を代金約二、〇〇〇万円で買求め、これを工場用地として開発し移転することとし、昭和四九年七月、うち約一、八〇〇坪につき都市計画法の規定による県知事の開発許可を受けた。

(三)  原告は、昭和五〇年一〇月末ころ、本件土地を訴外朝日食品株式会社に代金一、五〇〇万円で譲渡し、右代金は一部を現に操業中の事業資金に費消したほか、前記浦島の土地の購入資金として金融機関から借入れた金員の返済にあてた。

(四)  従前市内大字原別字上海原にあつた工場のうち主な騒音発生源であつた一棟は昭和五二年中に大字野内字浦島の土地上に移転し、同所で稼働中であるが、残る一棟は移転資金が不足なため移転の目途は立つていない状態である。

3  右のように本件土地は騒音規制法三条の規定により県知事が指定した騒音規制施域内にはなく、またその上に騒音発生施設が存したものでもないから、たとえ前認定のような事情の下で、原告が騒音規制地域である市内大字原別に所有する騒音発生施設である製材工場を他に移転するについて、移転先工場用地の取得のために金融機関から調達した金員の返済資金を得る目的で本件土地を譲渡したものであつても、右譲渡は措置法〔編注:租税特別措置法、以下同じ。〕六五条の七第一項の表の三号上欄に掲げる資産を譲渡した場合に該当しないことが明らかである。

原告は右規定の拡大解釈による本件土地譲渡の場合に対する適用の必要性を主張する。たしかに、右規定による税負担の軽減は住宅地域等における騒音公害を除去するという福祉行政目的の達成を租税負担の側面から促進しようとする趣旨で定められたものであるが、右負担軽減をいわゆる騒音規制地域内にある特定資産の譲渡の場合に限定した趣旨は、ひとつには一般的な営業活動に伴う営利を目的とする資産の譲渡と右のような公害除去を目的とする資産譲渡とがその態様外見のみからは必ずしも判然区別できず、申告者の主張する主観的目的の如何によつて租税負担軽減の特例を認めるか否かを決し、またはその主張にかかる「目的」の真偽の判定を経なければならないという不確実かつ煩雑な課税方式を避け、騒音公害の除去のための資産譲渡ということが客観的に明瞭な場合にあたるものとして前記の要件を定め、もつて租税負担の適正の原則と公害除去の促進の要請との調節を図つたものと考えられまた他面において、騒音規制法上騒音規制地域内に設置されている騒音発生施設を放置することが罰則をもつて規制され当該施設の使用方法等の改善により規制規準に適合させることができない限り、その移転が事実上強制されることになるため、買換えの目的でやむなく当該施設の存する土施を譲渡せざるをえない場合に、これに対する課税を通常の営業活動に伴う資産譲渡と同様に行なうのは相当でないとの考慮もあると考えられるのである。

したがつて、措置法六五条の七第一項の表の三号上欄に掲げられた特定の資産の譲渡の場合に限り租税負担の軽減措置を認めたのは合理的な理由にもとづくものであり、したがつて右条項が規定する負担軽減のための要件はみだりに類推又は拡張解釈してその適用範囲を広げることは許されないものといわなければならない。

そして右のように解釈することが憲法二五条の規定に違反しないことは多言を要しない。

よつて、原告の更正請求に対して被告がした本件処分には法令の適用を誤つた違法はない。

三  以上の次第であるから、原告の請求は理由がなく、失当としてこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 田辺康次 吉武克洋 池谷泉)

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